家族と学ぶ防災トレーニング

高齢者同居家族のための災害初期行動計画:自宅での安全確保と連絡体制の確立

Tags: 災害初期行動, 高齢者防災, 家族防災, 連絡体制, 避難計画, 安否確認

災害発生直後の初動が家族の安全を左右する

大規模な災害は、いつ、どのような状況で発生するか予測が困難です。特に高齢者と同居しているご家庭では、災害発生直後の数分間、あるいは数時間の初期行動が、その後の家族全員の安全を大きく左右する可能性があります。身の安全確保から家族間の連絡、避難までの一連の流れを事前に計画し、訓練を通じて共有しておくことは、いざという時の冷静な判断と迅速な行動に繋がります。

本記事では、高齢者を含むご家族が災害発生直後に取るべき初期行動について、自宅での安全確保、家族間の連絡体制の確立、そして具体的な訓練シナリオとその改善点に焦点を当てて解説します。

災害発生直後の第一歩:身の安全確保と初期対応

災害発生時、特に地震のような突発的な揺れが生じた際、最初に取るべき行動は「まず低く、頭を守り、動かない」という身の安全確保です。この基本行動に加え、高齢者のいるご家庭では以下の点に特に注意を払うことが重要になります。

  1. 高齢者への声かけと状況確認: 揺れが収まったら、まず身近にいる高齢者の安否を確認し、落ち着いた声で状況を伝えてください。パニックに陥りやすい状況だからこそ、冷静な声かけが重要です。怪我の有無、動けるかどうかなどを確認し、必要に応じて介助を始めます。

  2. 火の元の確認と初期消火: 地震の場合、揺れが収まった後に火災が発生することがあります。ガスの元栓を閉める、使用中の電化製品のスイッチを切るなど、火の元を速やかに確認し、可能であれば初期消火を行います。高齢者がいる場合、消火器の取り扱いや初期消火活動は困難な場合が多いため、若い世代が中心となって対応することが考えられます。

  3. 出入口の確保と避難経路の確認: 自宅からの避難経路が家具の倒壊や建物の損壊によって塞がれる可能性があります。主要な出入口が使用可能か確認し、安全な避難経路を確保することが重要です。特に高齢者が利用する部屋の出入口付近には、転倒しやすいものを置かないなどの配慮が求められます。

家族間の連絡体制の確立と安否確認

災害発生時には、通信網の混乱により、電話やインターネットが繋がりにくくなることが予想されます。このような状況下でも家族の安否を確認し、連携を取るための計画を立てておくことが不可欠です。

  1. 災害用伝言ダイヤル(171)や災害用伝言版(web171)の活用: 固定電話や携帯電話から「171」をダイヤルすることで、メッセージの録音・再生ができる災害用伝言ダイヤルは、災害発生時の安否確認の有効な手段です。また、インターネット経由でメッセージを残せる災害用伝言版(web171)も活用を検討すると良いでしょう。これらを事前に家族で練習し、使い方を共有しておくことが大切です。

  2. SNSや家族グループチャットの利用: スマートフォンが利用できる状況であれば、SNSやメッセージアプリの家族グループチャットを活用することも考えられます。ただし、これらのサービスも通信状況に左右されるため、あくまで補助的な手段として位置づけるのが賢明です。事前にグループを作成し、緊急時のルールを決めておくと良いでしょう。

  3. 集合場所の事前決定: 家族が離ればなれになった場合に備え、自宅周辺の一時集合場所と、広域避難場所の2段階で集合場所を事前に決めておくことを推奨します。特に高齢者の移動能力を考慮し、自宅からの距離や安全な経路を考慮して選定することが重要です。集合場所には、目印となる建物や施設を設定し、具体的な地図で確認しておくことをおすすめします。

  4. 連絡が取れない場合のルール: 「○時間連絡が取れなかったら、△△の場所に集合する」といった具体的なルールを設けることで、家族それぞれの不安を軽減し、次に取るべき行動を明確にできます。このルールも、高齢者の体力や移動時間を考慮した現実的な内容にすることが大切です。

高齢者への具体的な介助と配慮

災害時における高齢者の介助は、状況に応じて細やかな配慮が求められます。

  1. 移動時の介助: 高齢者の体力や身体能力は個人差が大きいため、介助の方法も個別に対応する必要があります。普段使用している杖や歩行器をすぐに持ち出せる場所に置いておくこと、手すりや家具を活用して移動を補助することなどが考えられます。転倒のリスクを考慮し、介助者は高齢者の身体を支えやすい位置で、常に声をかけながらゆっくりと移動することが重要です。

  2. 持病や常備薬への配慮: 持病を持つ高齢者にとって、常備薬は命綱となる場合があります。災害時に持ち出すべき緊急持ち出し品の中に、最低3日分、可能であれば1週間分程度の常備薬と、お薬手帳などを入れておくことを強く推奨します。

  3. 精神的なケアと落ち着いた声かけ: 災害による不安や混乱は、高齢者にとって大きなストレスとなります。介助者は常に落ち着いたトーンで話し、安心感を与えるよう努めてください。災害情報を提供する際も、不安を煽るような表現は避け、冷静に事実を伝え、今後の行動について具体的に説明することが大切です。

自宅での簡易訓練シナリオと課題改善

家族で初期行動計画を立てたら、実際に自宅で簡易的な訓練を実施し、課題を洗い出すことが重要です。

訓練シナリオ例:深夜の地震発生を想定

  1. 状況設定: 深夜2時、就寝中に大きな地震が発生したと想定します。
  2. 初動: 揺れが収まった後、まずは自身の身の安全を確保します。次に、寝室にいる高齢者の安否を確認し、安全な場所への移動を促します。
  3. 役割分担の確認: 事前に決めておいた役割(例:若い世代が火の元確認と出入口確保、高齢者の介助者は介助に専念)に従って行動します。
  4. 連絡手段の確認: 家族が別々の場所にいると想定し、災害用伝言ダイヤルやメッセージアプリでの安否確認を試みます。
  5. 一時集合場所への移動シミュレーション: 自宅から一時集合場所までの経路を実際に歩いてみたり、口頭で確認しあったりします。高齢者のペースに合わせて、どの程度の時間がかかるかを確認します。

訓練で発見された課題とその改善策

訓練を実施すると、必ず何らかの課題が見つかります。

これらの課題は、話し合いだけでは見えてこない具体的な問題点です。訓練を通じて発見し、一つ一つ改善していくことが、より実効性のある防災対策へと繋がります。

家族で継続的に話し合い、備えを更新する

災害初期行動計画は、一度策定したら終わりではありません。家族の状況変化(例えば、高齢者の体力や健康状態の変化)、または季節の変わり目などに合わせて定期的に見直し、更新していくことが重要です。

家族での防災に関する話し合いは、時に重いテーマと感じられるかもしれません。しかし、「もしもの時に、お互いを守るため」という共通の目的意識を持つことで、前向きに取り組むことができます。お茶を飲みながら、食卓を囲みながらなど、リラックスした雰囲気の中で、少しずつ話し合いを進めていくことをお勧めいたします。

本記事が、高齢者を含むご家族の皆様が、より安全で安心な生活を送るための一助となれば幸いです。